本書は緑の六号(@toki_6g)さんの艦これ同人誌。その総集編です。
これまで刊行された羽黒が主人公の本をメインに、描き下ろしとゲストページで構成された豪華版です。
収録作品、実に10点(既刊8、描き下ろし2)。
幕間には「Twitter劇場」としてTLに投稿された四コマなども収録してあります。
珠玉のエピソード達。
収録作のタイトルを抜粋しますと、
- 海は瑠璃 天は玄
- ハニーライクスマイル
- きみと手を繋いで
- ビューティフル・モーニング・ウィズ・ユー
- シシリアンキッスで乾杯を
- 初春かわいい
- 姫様逃走中
- 司令官がいなくなった日
- これから
- 長い夜、明るいあした
……となっております。
初期から追っていくと、羽黒を中心に、妙高姉妹、他の艦娘達と、様々なキャラクタが絡み合いながら、ストーリーが、世界観が作られていくのがよくわかります。
初期には金剛シスターズや皐月なんかも出てたんだね!(総集編でやっと拝めた)
「今見ると解釈違うとこもありますが」なんてコメントもありますが、現在進行形のライブ感から独自のキャラ立て、関係性へと落ち着いていくその過程も良いモノです。
世界観の提示が敢えて曖昧にされている艦これの二次創作には、「解釈」と「再構成」が欠かせません。
それが独自の世界として読者に受け入れられた時、二次創作が完成するのだと思います。
「炯眼隊」があり、初春のいる七川鎮守府が加わり、そして「むっくん」と羽黒の関係がひとつの答えを出したその時、『六号世界線』とも呼べる世界が誕生したと言えるのだと思います。
広い海にばらばらだった『羽黒』は、ひとつの『羽黒』になったのだ
実に印象的なフレーズです。文章が土俵である(それしか能がないとも云う;)身からしても、嫉妬さえ憶える出来。
つまり、これがセンスなんだろうな。感嘆と諦観のない交ぜになった溜息をつく瞬間です。
艦これの二次創作には「解釈」と「再構成」が必要だと先程述べました。
解釈ひとつ取っても、その切り口は様々。きっかけも様々。
同じ羽黒をフィーチャーしても、それはbobお義父さんのヴィジュアルに惹かれてのことか、種田梨沙さんのボイスを聞いてのことか。ゲーム画面でのドンパチを発展させるか、ゲームが描ききれない「戦争」に思いを致すか。艦娘同士の関わりは。
艦これという世界にばらばらに散らばる『羽黒』というピース。それらを拾い集め、組み立てていくうちに、その作家さんの「かたち」が産まれます。
同じピース同士でも、組み合わせと視点次第でまったく違う個性が産まれる。それはさながら、ACGTという塩基列の組み合わせに過ぎないモノが独自のかたちを得る、生命そのもののように。
その意味で、本書は堂々たる艦これ二次創作の金字塔、そう評して差し支えないと思います。
ふたりの「その後」は……
羽黒をめぐるストーリーはひとつの区切りを迎えました。
その二人の「その後」は? 想像は確かに尽きません。
作者さんは「リクエストされたら心動くかも」なんてことを仰っていますが、二人を包む世界が終わったわけではありません。
炯眼隊の戦いの裏側で、あるいは全く新しいなにかの隅っこで、二人の足跡を見付けることが出来るかも知れません。
「クロスオーバー大好き侍」と仰ったその言葉に期待しながら、この世界の続きを見られる日を楽しみにしたいと思います。