C94感想:「マルロク」

至高の総集編。

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本書は緑の六号(@toki_6g)さんの艦これ同人誌。その総集編です。

これまで刊行された羽黒が主人公の本をメインに、描き下ろしとゲストページで構成された豪華版です。

収録作品、実に10点(既刊8、描き下ろし2)。

幕間には「Twitter劇場」としてTLに投稿された四コマなども収録してあります。


珠玉のエピソード達。

収録作のタイトルを抜粋しますと、

  • 海は瑠璃 天は玄
  • ハニーライクスマイル
  • きみと手を繋いで
  • ビューティフル・モーニング・ウィズ・ユー
  • シシリアンキッスで乾杯を
  • 初春かわいい
  • 姫様逃走中
  • 司令官がいなくなった日
  • これから
  • 長い夜、明るいあした

……となっております。

初期から追っていくと、羽黒を中心に、妙高姉妹、他の艦娘達と、様々なキャラクタが絡み合いながら、ストーリーが、世界観が作られていくのがよくわかります。

初期には金剛シスターズや皐月なんかも出てたんだね!(総集編でやっと拝めた)

「今見ると解釈違うとこもありますが」なんてコメントもありますが、現在進行形のライブ感から独自のキャラ立て、関係性へと落ち着いていくその過程も良いモノです。

世界観の提示が敢えて曖昧にされている艦これの二次創作には、「解釈」と「再構成」が欠かせません。

それが独自の世界として読者に受け入れられた時、二次創作が完成するのだと思います。

「炯眼隊」があり、初春のいる七川鎮守府が加わり、そして「むっくん」と羽黒の関係がひとつの答えを出したその時、『六号世界線』とも呼べる世界が誕生したと言えるのだと思います。


広い海にばらばらだった『羽黒』は、ひとつの『羽黒』になったのだ

実に印象的なフレーズです。文章が土俵である(それしか能がないとも云う;)身からしても、嫉妬さえ憶える出来。

つまり、これがセンスなんだろうな。感嘆と諦観のない交ぜになった溜息をつく瞬間です。

艦これの二次創作には「解釈」と「再構成」が必要だと先程述べました。

解釈ひとつ取っても、その切り口は様々。きっかけも様々。

同じ羽黒をフィーチャーしても、それはbobお義父さんのヴィジュアルに惹かれてのことか、種田梨沙さんのボイスを聞いてのことか。ゲーム画面でのドンパチを発展させるか、ゲームが描ききれない「戦争」に思いを致すか。艦娘同士の関わりは。

艦これという世界にばらばらに散らばる『羽黒』というピース。それらを拾い集め、組み立てていくうちに、その作家さんの「かたち」が産まれます。

同じピース同士でも、組み合わせと視点次第でまったく違う個性が産まれる。それはさながら、ACGTという塩基列の組み合わせに過ぎないモノが独自のかたちを得る、生命そのもののように。

その意味で、本書は堂々たる艦これ二次創作の金字塔、そう評して差し支えないと思います。


ふたりの「その後」は……

羽黒をめぐるストーリーはひとつの区切りを迎えました。

その二人の「その後」は? 想像は確かに尽きません。

作者さんは「リクエストされたら心動くかも」なんてことを仰っていますが、二人を包む世界が終わったわけではありません。

炯眼隊の戦いの裏側で、あるいは全く新しいなにかの隅っこで、二人の足跡を見付けることが出来るかも知れません。

「クロスオーバー大好き侍」と仰ったその言葉に期待しながら、この世界の続きを見られる日を楽しみにしたいと思います。



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