樋渡りん(@hiwataririn)さんの作品。
前作"Rachet"につづく、「時計店を営むお姉さんのお仕事模様を描いた漫画」。題字も箔押しになって、表紙から端正な仕上がりになってます。
記事中のページは作者さんがサイトで公開しているサンプルから抜粋させて頂いてます。
今日のお客様は……?
今回はお隣さんで顔馴染みの主婦、「笹倉さん」のお話。
気軽に訪れては、何を買うでもなく駄弁ったり、仕事漬けの冠さんに気を揉んだり。そんな二人の出逢いのお話でもあるようです。
OMEGA Cal.650
今回の時計はOMEGA。詳細に描き込まれているので、腕時計は専門外の私でも、調べるのに苦労はありませんでした。
キャリバー(Cal.) 650と呼ばれるモデルで、開発は1964年。シリアルからは1966年製と読み取れます。
直径12.7mm、厚み2.85mmという小型の機械で、レディス用として様々なドレスウォッチに組み込まれたりして使われたようですが、作中の個体はごくオーソドックスなケーシング。
機械のレイアウトは17石、19,800振動。実用本位のレディスウォッチと言って良いのではないでしょうか。
蘇る、鼓動。
笹倉さんが母から譲り受けたものの、動かなくなってしまったという時計。修理も出来ずに飾り物になっていたことを知り、冠さんがその修理を買って出ます。
「お任せ下さい きっと元気に動いている姿をお見せします」
頼りなさげに思われていた冠さんですが、そう言い切る姿には自信が溢れていました。
修理シーンは淡々と進みますが、その描写は非常にマニアックです。
専用のオープナーでケースを開け、
時計用旋盤のセッティング、
鋼材から天真を削り出し、
新しい主ゼンマイを入れる。
その後も遅くまで仕事に打ち込む冠さん。
そして、見事修理は完了します。
大切にするね
回想を終えて。
「綾子さん」にメンテナンスのことを尋ねる笹倉さん。
機械式時計のメンテナンスは2~3年おきが良いと私も聞いています。最大の理由は各所に注油されている油の問題。揮発したり劣化したりするので、動かしているかどうかに関係なく2~3年でメンテナンスすることが推奨されています。油切れの状態で駆動させると一気にダメージが進行しますし、精度も出ません(動かさずに保管だけしている分にはいいですが)。
そして、蘇った時計が繋ぐ二人の絆。何気ない言葉の裏には、信頼が込められています。
いつまでも見ていたい、温かな物語
他所が投げ出すような修理をこなし、思い出と絆を蘇らせる「冠さんの時計工房」。
こんなお店が自分の側にあればと思わずにはいられません。髪を下ろした綾子さんかわいい。
キャラの可愛さに任せず、精緻な描写を敢えて背景に留めながら「お話」を描く前作譲りの手法は、なんとも心憎いものがあります。
出来ることならばこのまま連作して頂いて、いつか単行本くらいのボリュームで読んでみたい。
そう思わせる一編でした。