アメリカン・ポケットウォッチの特徴と魅力
現在私が惹かれているアメリカ製の懐中時計、ここでは特に鉄道時計の黄金時代とも言われる1800年代末~1920年代のものをご紹介します。
いずれも四分の三世紀~一世紀近い時を経てきたアンティークですが、ほとんどは複雑機構と呼ばれる機能を持たない"time only"の機械です。
外装にしても金張りなどの質素なものが多く、こと鉄道時計に関して言えば、視認性最優先の文字盤は有体に言って野暮ったいと言われることもあるでしょう。
では、その魅力は一体何でしょうか。
それは、何をおいても「まず実用品であること」が貫かれたその姿から垣間見える、時計としての基本、あるいは原点のようなものに対する共感ではないでしょうか。
確かに、絶対的な精度を突き詰めればデテント脱進器のクロノメータや天文台コンクール仕様の機械には及ばないでしょうし、美術的な美しさを追い求めれば貴族向けの骨董やら「雲上ブランド」とも称される欧州超一流メーカーの最上級品には敵うべくもありません。
しかし、あくまでも日常の生活や仕事の中で使われる実用品であることを決して忘れていない点が、限られた人間のみが所有を許されるような雲上の品々とは趣を異にします。それでいて、その個性や表情、そして込められた意思のような人間味を決して失ってはいない。
量産品でありながら、同時に非常な手間とコストもかけられている、この絶妙なバランスこそがアメリカ懐中時計、その真髄と言えるでしょう。実際、同時期の他国(イギリス、フランス、スイス等)の機械と比べるなら、同じ価格であればよりグレードが高く、同じグレードであればより安く手に入れることができます。
複雑な機能、華美な装飾こそ持ないものの、絶対的に「良いもの」であること。それがアメリカ懐中時計なのです。