懐中時計を身につける(ポケットの中の時計)
懐中時計は"Pocket Watch"ではありますが、ただポケットに放り込めば良いというものではありません。日々の扱いが雑だと、思わぬ破損を招いたり、長期的に見て寿命を縮めることにもなります。
懐中時計を身に着けるなら、紐や鎖などできちんと衣服に留めるべきです。落下すれば、ほぼ確実に外装が痛みますし、機械だって無事では済みません。
…とはいえ、趣味の世界でフォーマルだとかカジュアルだとか喧しく云々するのも鬱陶しいもの(ファッション好きの方、ごめんなさい(笑))。ここでは、私の知識と興味が呼ぶ範囲で、懐中時計を身につける方法をいくつかご紹介しようと思います。
鎖
「鎖で留められた懐中時計」というのは、いかにもアンティークといった雰囲気を感じさせてくれます。そのイメージに憧れて懐中時計を手にしようと言う方もいらっしゃるのではないでしょうか。
まず、現在安価に手に入れられる鎖をいくつかご紹介します。安価なものなので、材質は真鍮や金メッキ。
何とかそれらしく見せたいところですが、残念ながらアンティークの時計にぴたりと会うような雰囲気は持ち合わせていません。おそらく、意匠や様式が現代では用いられないものであったり、色が合っていなかったりすることが原因でしょう。特に金の場合、現代のものは鮮やかすぎる色になってしまうことが多いようです(純度云々の問題ではなく、色合いの問題)。
やはり、アンティーク懐中時計にもっとも相応しいのはアンティークの鎖。お世辞にも安価とは言い難いですし、入手性にもやや難がありますが、雰囲気という点ではやはりこれが最高です。冠婚葬祭の場に持ち込んでも浮き上がることはありません。
鎖を使う場合はナスカンを時計のボウに掛け、反対の端にあるバーやクリップ、環などを衣服に留めます。時計をポケットに納め、余った鎖はポケットの縁から垂らしてアクセサリーに。
ただし、鎖を使うと間違いなくケースは傷みます。ボウは確実に磨耗しますし、余った鎖が時計と一緒にポケットに入っていると、ケースに当たったり擦れたりして傷が付く可能性もあります。ここ一番のお洒落ならともかく、毎日の使用には躊躇するところです。
紐
金属製の鎖ではなく、紐を使って身に着ける方法もあります。取り回しも楽ですし、時計を消耗させにくいという意味においては鎖よりも優れています。日常で使用するなら、こちらを使うのがお勧めです。
安価な紐はナイロン製ですが、ひと味違ったものもあります。
上野の老舗「道明」では、注文に応じて正絹の組紐で懐中時計用の紐を手造りしてくれます。出来立ての紐はきりっと引き締まり、神事にでも使えそうな凛々しさを感じさせてくれますが、使い込むと柔らかく、しなやかに馴染む逸品です。
色は様々な中から選べ、単色~二色の組み合わせ、標準的な長さであれば3,300円で注文することができます(納期は注文から約一ヶ月)。個人的には、かなり良心的な価格だと思います。
残念ながら、「道明」での組紐の注文受付はできなくなった模様です。悪しからずご了承ください。
2008/11/15時点では注文が可能になっているようです(コメント参照のこと)。
多少割増しにはなりますが、多色の組み合わせによって縞や柄を織り込むことも可能ですし、長さの変更も可能だそうです。変わったところでは、リボンのような幅広に組む例もあるとか。
組紐そのもの、あるいは和装に関する知識があれば、より込み入った注文を伝える際に役立つことでしょう。私は組紐の本を買って目下勉強中です。
有職組紐 道明【ゆうそくくみひも どうみょう】
東京都台東区上野2-11-1
03-3831-3773
10:30~18:30(日祭日~17:00)
※2006/1現在、お店のサイトやメールアドレスは存在しないようです。
その他
携帯電話などに使うストラップを流用することも物理的には可能です。しかし、激しく風情に欠けるので、敢えてお勧めするようなものではありません。アンティークの金時計からビニールのカールコードが伸びている様はちょっと…。マスコット?勘弁してください(笑)
身に着ける際の注意点
最初に強調しておきますが、懐中時計における鎖や紐というのは、あくまでも「落下を防ぐ命綱」です。懐中時計をぶら下げるのは、結果であって目的ではありません。
ポケットから懐中時計を取り出す際は、鎖や紐を持って引っぱり出すのではなく、ペンダントなど、懐中時計の本体を持って取り出す癖を付けるべきです。これには、ボウの磨耗を防ぐことと、ぶら下がった時計が思わぬ振れ方をしてどこかに衝突したりするのを避けることという、二つの意味があります。
また、細かいことになりますが、懐中時計を支えるものなしに宙吊りにするのはあまり好ましいことではありません。内部ではテンプが高速で往復回転を行っていますが、実は、僅かながら時計本体にその反動がかかっています。支えるもののない宙吊り状態にすると、その力で時計本体が動き出し、その動きがテンプの運動に干渉すると、テンプの振り角が限界を超えて振り当たりを起こす(結果的に大きく進む)可能性があります。特にテンプが大型で、元々の振り角も大きい鉄道時計は要注意です。
Comments
いや~、まったく何も知らなかった私にいろいろ教えていただき、ありがとうございました。
奥が深いわぁ(^^;;
ところで、写真の『望月』ですが私の処に来たスケルトン時計は3時の位置に竜頭が来ています。
どうも全国展開する際にその辺りを変えたようですね。
わ…改めて読み直したら変な文になってる…
正確には
『オマケのスケルトン時計ですが、私の処に来たスケルトン時計は3時の位置に竜頭が来ています』ですね…『写真の望月ですが』じゃあないってば。
何を書いているんだ私は(^^;;
こちらで拝見してあまりに素敵なので、先日上野に出かけた際に道明さんに伺ったのですが、懐中時計の提げ紐はもう作っていないとのことでした。尋ね方が悪かったのかもしれませんが、ご報告まで。
>> ぶら 様
情報ありがとうございます。
記事書いてから一年以上経つので状況が変わってもおかしくはありませんが、本当だったら非常に残念ですね。
今度機会を見つけて確認しておきます。
こんにちわ、えんです。
道明さんに伺ってきましたところ、一点ずつの注文はもう扱っていないとの事でした。
ただ、ある程度まとまった数があれば受けてくれないこともないようです。
「ある程度」がどの程度の数なのかは確認できなかったのですが、5や10では多分無理、な感じでした。
残念ですが、ご報告まで。
それから、この間はマサズさんでどうも有難うございました。
せっかくの機会だし、もっといろいろ見せて頂けば良かったのですが、なんだかもう舞い上がっててそれどころじゃありませんでした。
機会がありましたらまたどうぞ宜しくお願いします。
>> えん 様
レポートありがとうございました。色や柄の好みを織り込んで「自分の」紐を注文することが醍醐味であったので、大量注文にはあまり向いていない気もします。つまり事実上注文が不可能になってしまったわけで、理由のほどはよく解りませんが、とにかく残念です。
伝え聞いた限りでは、多少姿は違うものの、京都のほうに懐中時計に使える組紐を作ってくれる和装のお店があるらしいのですが、具体的な話を聞きそびれてしまいました。残念。
京都の寺町に伊藤組紐店さんで
懐中時計用の組紐をつくっていただけますよ
http://itokumihimoten.com/?pid=3561416
道明さんに今日、電話で聞いたらOKでしたよ?
4〜5千円で1ヶ月だそうです。
情報ありがとうございました。
多少値上がりはしているようですが、入手可能になったのは朗報です。
道明さんの懐中時計の組紐はやっぱりもう作ってないそうです。前々から気になっていて、いつかは作ってもらおうと思っていたのですが残念です。
余り数も出ないので注文でも、もう受けていないそうです。
私の体験です.
つい先月、10月2日に直接お店に伺って注文してきました.3300円で作るのに1ヶ月ぐらいかかるとのことでお願いしてきました.10月30日に丁寧な制作完了と送付のお電話をいただき、送っていただきました.私のが最後の1本?
注文の時に、色の選択はもちろん可能でしたが、現在単色のみで色の組み合わせの依頼は受けていないとのことでした.