Jun.06, 2006

ありそうでなかったアンティーク時計本

[Diary]

世間で機械式時計というと、第一に連想されるのは腕時計のようです。

まあ、今更機械式クロックでもないでしょうし、懐中時計の使い勝手は腕時計には及びませんし、それもやむなしとは思います。ただ、現行の腕時計はあまりにもファッションやブランド主義に傾倒しているように感じるので、私個人は「ちょっと付き合い切れんなー」と思っています。

そんな偏屈なアンティーク懐中時計ファンというのは、まあ進化の系統樹からはみ出した珍獣ともいうべき存在のようで、何をするにしても苦労がつきまといます。国内では雑誌やムックが扱うのは専ら腕時計ばかり。アクセサリにしても、腕時計にはコレクションボックスやワインディングボックスがいくらでも売られているのに、懐中時計には収納用の箱さえ売られていません。

仕方がないので、しぶしぶ洋書を買い集めてぼそぼそと翻訳するわけですが、元々英語がヘタクソなので、どうにも苦労が絶えません。こんな状態では、懐中時計の魅力を他人様にお伝えすることなど夢のまた夢ではないか!?などと思うこともしばしば。

そんな昨今、懐中時計をはじめとする古の時計を扱うムックが発売されたという噂を聞きつけました。毎号懐中時計がオマケに付いていて、創刊号は特別価格790円!

HACHETTE_01.jpg
アシェット婦人画報社刊「甦る古の時計」

そ ん な デ ア ゴ ス テ ィ ー ニ 商 法 …(;´Д`)

一瞬ヤバげな匂いを感じましたが、気になるのは確か。しかし、いざ入手しようとすると「静岡限定発売」の文字。何故に静岡……?静岡ってのは何かの実験場なんでしょうか。スーパーロボットの秘密基地が乱立しているのもそのせいなのか。もしかすると水道水にまでフッ素が混入されているんじゃなかろうかと疑ってしまいます(をぃ。

ともあれ、静岡と云えば浜松在住の畏友すめるしゅ丼。「今回だけは浜松町の看板を下ろすことを許してやるので、きりきり買って寄越しやがれです!」と電波を発信してやっとこ取り寄せる事が出来ました。ふぃー。

さて、肝心の中身はというと、これが意外や意外、かなり本格的です。機構面の技術史から歴史的エピソード(第一号はハリソンのマリン・クロノメータ)、クロックや懐中時計の歴史的名品の解説から「時計師AtoZ」まで。歴史だけでなく、懐中時計を身に着ける方法など、実用的な知識まで網羅しています。国内の本では異色の出来と言ってよいのではないでしょうか(個々の記事のボリュームがもっとあれば言う事なしなのですが)。

この記事のレベルの高さの所以は、その出典にあるようです。記事の原典は"Clocks, their Origin and Development 1320-1880"で、その翻訳を編纂したものが掲載されてゆくとのこと。クレジットを見てみると、監修や校正、翻訳といった部分を除いた編集スタッフは編集長以下の殆どを外国人(なんかフランス系な感じの名前。スイス人かも知れん)が占めています。ブレゲ時計の解説に到っては、参考文献がGeorge Danielsの"The Art of Breguet"(ディープなマニアの方々が噂しているのを見たことがあるだけで、実物を見た事はないのですが。HABSBURG AUCTIONのカタログ?)。

http://www.marchrabbits.com/uploads/2006/06/HACHETTE_01_watch-thumb.jpg
オマケの懐中時計。1910年頃の時計をモチーフにした「教訓の時計」。文字盤にラテン語で書かれた「時は全てを飲み込む」という警句(教訓?)がポイントらしい。
http://www.marchrabbits.com/uploads/2006/06/HACHETTE_01_mov-thumb.jpg
http://www.marchrabbits.com/uploads/2006/06/HACHETTE_01_movup-thumb.jpg
ムーブメントはスイスISA社のK65。

さて、オマケの懐中時計の方にも触れておきましょう。一応、年代とテーマが設定されており、「形状や様式によって製造された年代の精神を象徴」しつつ、「高品質のクォーツムーブメント採用により、長期の使用に耐えられます」とありますが、まあこの辺は「ものは言いよう」という奴でしょう。即ち、

「斬れませぬ。飾りかと」

つまり、既にアンティーク時計を持つ者にとっては、材質、仕上げ、質感、いずれも問題外の造りということです。もっとも、オマケとしては頑張っている方とは思いますが。そういや前にも似たようなものを見た憶えがあるぞ。

ムーブメントは「スイス製クォーツムーブメントに新しく上質な電池」と謳っています。験しに分解してみると、確かにムーブメントはスイスISA社製、K65というタイプのようです。電池はSEIZAIKAIブランドの酸化銀電池。SII-SEIZAIKAIなどとも呼ばれているようなので、セイコーグループなのかしらん。

まあ、時計として実用することは可能なので、懐中というスタイルを満足してくれれば機械はどーでも良いという方や、お金のない方の入門用には悪くないのかも。

ともあれ、オマケはオマケとしても、記事自体のレベルが高いので、この調子で続刊されるのなら定期購読する価値は充分にあると思います。懐中時計に興味があるがよく解らないという方、日本語で書かれた関連書籍をお求めの方には充分オススメできます。

というわけで、調達に協力してくれたするめ丼、ありがとーございました。

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Comments

From :すめるしゅ : 2006年06月07日 23:17

物が届いてなによりです。時計は早速ばらしたのね。このマッドエンジニアめ、と誉め言葉です。

静岡は何気に試供品の実験場となる機会が多いのです。なんでも、家族構成とかその他もろもろが日本の平均値に近いらしいです。流行最先端の地なのですよ。

From :PsyonG : 2006年06月07日 23:40

部品点数が片手の指ほどしかないよーなもんをバラしてエンジニアも何もあったもんではありません(w。その点では、さら丼の同僚のとみ先生は現行品とはいえ機械式の懐中を完全に分解してしまったツワモノです(笑)。

東海地方は日本の実験場だったのですね。何か表に出せない胡乱な実験も行われてるんでしょーか?(w

ともあれ、ご協力感謝です。お代は今度浜松町から出てきたときに(笑)

From :riel : 2006年09月24日 21:07

こんばんは。
古の時計で検索してこのサイトを見つけました。
素人ですがよろしくお願いします。
本屋さんで第一号見ましたが、確かに(ry
でした^^;
ミニチュアサイズにしてくれたら、和装に使えたんですが、、、
第三号のナポレオンがほしかったのですが、あの大きさだと造りの善し悪しがすぐ判っちゃうので考えますね。

懐中時計用の紐を扱ってるサイトがあったので貼ります。
(マワシモノじゃないです^^;)
http://www.rakuten.co.jp/obashiya/507540/507538/

From :PsyonG : 2006年09月27日 00:28

riel さん、はじめまして。

和装の経験は七五三の三だけという私ですが(笑)、和装に合わせるには大きさよりも薄さを重視するという方の発言をどこかで見た覚えがあります。

通販の懐中紐、ネットで注文もできるようでなかなかリーズナブルですね。当サイトでも紐や鎖について扱ったエントリがありますので、宜しければご覧下さい。

「道明」では、「懐中紐のこのサイズ、この環の大きさは和装に合わせてウチが作ったサイズが元祖」と言われたことがありました。

では、今後とも宜しくお願い致します。

From :riel : 2006年09月29日 23:23

道明、拝見しました。
素敵ですねえ。。。
オリジナルを造ってくれるってとこがオタ心を刺激します笑
女性の場合、和装の際には帯に懐中時計を挟むので薄さが求め
られるんでしょうね。
古の時計を挟むのは無理っぽいです。
取り出しても多分ドン引きされます。orz