く、喰らいたい……
喰らって己が五臓で味わいたい……
馴染みの店が海外買い付け品の品出しをする日ということで出向いてみた。現在の経済状態では安いモノであっても手を出す余裕は全然ないとはいえ、その手に取って己の目でじっくり!たっぷり!ねぶるよーに鑑賞する滅多にない機会であるからして。
何でもかんでも高騰し倒しという昨今の事情を反映してか数はされほどでもなかったものの、ブツの方は色々凄いのがあった。自分のものではない商品を勝手に撮ってきて貼り付けるわけにもいかないので、画像でお伝えできないのが残念。
不勉強のせいで表現の術を持たないのが悔やまれるけれども、工業製品より工芸品といった趣が濃く、それでいてもあくまで「機械」であり「装置」であるイギリス時計の有無を言わせぬ迫力や、理屈の上ではあり得し説明はつくけれども現物として存在しているのを見るのは初めてという珍品もあり。
アメリカ製でもいくつか出物はあったし、SeriesIIIなんかは流石の迫力だったけれども、今回一番心を「メシャッ」と鷲掴みにしてくれたのはWalthamのModel.72。嗚呼、何と見事なダマスキンよ……
モデル番号だけでペットネームも付いてないモデルながら、19c後半におけるアメリカ懐中の一つの到達点とも言うべき至高の一品。仕様だけ書き出せば単なる21石の懐中時計ということになるけれども、とにかく仕上げが凄まじい。フルフラット3/4プレートの全面に施されたダマスキンの幾何学模様に「ズゴキュッ」と屹立する背高のシャトン。それらが当然のように青焼きされたネジによって留められ、その風格は他を圧して余りある。その機械を収めるケースも肉厚が厚いとか薄いとかいうケチ臭い話を超越して城塞のような重量感をもって見る者を睥睨していながら、文字盤や針は敢えて質素。しかし要所要所の引き締まった上品さは隠しようもなく、まさに逸品の名に相応しい。
当然値段も至高の逸品。文字通りの桁違いなので死ぬ気にならないと手は出せない(笑)。
さて、物の為に死にきれない己の業の浅さを恥ずべきか言祝ぐべきか。
その前に金子をもちっと何とかせずばなるまいなぁ。